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皆さまは小説家芥川ときくと地獄変……羅生門…蜘蛛の糸…などの名作文学を、中学高校の勉強で習い頭の片隅あたりにちいさく憶えている人もいるかと思う。


  彼は明治大正時代のなかで花開いた一流文学者で師はあの有名な文豪夏目漱石であった。芥川の小説は巧みな文章構成と、古文趣味、幻想性を混ぜあわしたノルスタジックな旨味があるのだ。日本西洋問わずあらゆる知識をそなえ、そして凡人とは逸脱した鋭い才能が感じられる。自殺という悲劇的な最期でさえ彼の小説の一部とさえ伝えられ後に続く後輩たちに多大なる影響を与えたのは言うまでもない。


彼の初期中期の作品には芸術至上主義を激しく香らせ美しい文を存分に発揮するばかりだった。美ばかりに集中した作品は、批判され、薄っぺらいだの…文が華美されすぎているだの同じ文学仲間からも散々である。それらは芥川に対する嫉妬もある程度あるのかもしれない。が、彼の性格ものちにある悲劇を生んだ起因かもしれなかった。

学友で生涯を通じての友人……文藝春秋創設者……同じ小説家である菊池寛の作品、『無名作家の日記』のなかで芥川龍之介の評価印象はこうである。


「ことに、山野となると、意識的に俺を圧倒しようと掛っていた。あいつは、自分の秀れた素質を、自分より劣った者に比較して、そこから生ずる優越感でもって、自分の自信をつちかっているという、性質の悪い男であった。」

[注・山野とは芥川をモチーフにしたキャラです。]

とあるように彼は高飛車であるように思われる。しかし菊池寛は芥川の死後今なお続く日本文学賞の最高峰「芥川賞」と「直木賞」を創設した偉人だ。


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[注・菊池寛]

芥川は病的に臆病だった。はじめて夏目漱石にあったとき芥川は自分があの有名な文豪に嫌われたのだと勘違いし、ひどく落ち込んだ。それはまるで死にそうなほどだったという。が、後に芥川の作品「鼻」を夏目漱石が激賞し一気に芥川は日本文壇で存在感をあらわにしていったのであった。

臆病の要因…それは幼少の頃、芥川の父は不倫をした。それも浮気相手は芥川の母の妹とである。一方母はもともと病弱で気が狂っていた。その為彼が物心つくまえに芥川は母の姉フキに預けられ、実の子のように寵愛されました。

芥川の小説「点鬼簿」(テンキボ)とは死者の過去帳、死者の思い出を書いた作品である。その小説で母は完全に狂っていた。彼は子供時代のある日実母に会いにいくと実母はニタニタ笑みながら煙草菅(パイプ)で思いきり彼をぶち、実母に絵をかいてと迫るとその絵の芥川龍之介と家族の顔は狐の顔をしていた。その絵柄は完全に狂っていたという。だからか実の母からは愛情の一切を感じなかった。

一方実母の姉の家では完璧で優秀を演じなくてはいけなかった。父は実母の妹と浮気をし、腹違いの弟が産まれ実母は気が狂っていたからでした。

「失敗をすれば捨てられる」


そうした歪んだ脅迫観念に支配され家庭のなかで彼は徐々に精神をすり減らしていたのかもしれません。

34歳の芥川龍之介が当時の作家の代表作ばかりをあつめた『近代日本文芸読本』が発売された。100人以上に手紙を出し承諾を得るのは並大抵の努力ではありません。 2年の歳月をかけじっくり実現させた作品なのです。そうしながらも作品の性質上、芥川龍之介にはいる収入は微々たるものでした。それなのに「芥川は一人だけ儲けて、書斎を新築した」との根も葉もない噂が流布され、芥川の善意をもとに作られた『近代日本文芸読本』が彼の精神をさらに蝕んでいった。


彼は晩年発狂することに常軌をいして畏怖する。実母のように狂いたくはなかったとの逸話もあります。それに加え芥川の姉の夫が火災保険金狙いの放火をした、との嫌疑をかけられ追いつめられた末に姉の夫は自殺しました。
[注・放火事件はただの漏電だったと判明]
そのことで彼は姉家族の金銭的負担まで背負うことになりました。
この時点で彼の扶養家族は三人の息子と妻、養父母と姉家族を養わなければならなくなったのです。

そして彼最大の禁忌は或る女性と過去に浮気をしました。そして晩年のある日に浮気相手は小さな子を連れて芥川の家にあらわれ

「わたしの子貴方に似ていない?」


とつぶやき笑んだ。

  • 芥川の遺稿「歯車」より
  • 僕は罪を犯した為に地獄に堕ちた1人に違いなかった。
  • 僕はあらゆる罪悪を犯していることを信じていた。


同小説(実体験に基づく)「歯車」には彼の狂気の心理状態が生々しく描写されている。むき出しの白い神経が痛々しく文章に現れていた。

レインコートの男に付け狙われる。その先には必ず死と不吉が待ち受けている

あれだけの技巧を駆使した文脈や文章の影さえなく、非常に質素な文と、妄想と幻覚に囚われた異常者的な内容

彼の瞳には歯車がカチカチとまわり、時には彼の視界を奪うほど数を増やしていた。この病気は閃輝暗点症という

人はなぜ自殺するのでしょうか?芥川龍之介いわく

「唯ぼんやりとした不安」

それは精神的苦痛や病苦あるいは金銭問題が複合的に重なって、将来に対する悲観になるのかもしれません。

人生こそが尤も恐ろしくオカルト的な要素があるのかも…。


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